浦安市 ディズニーリゾート
浦安市舞浜1-1
「エンターなんだから、我慢しなきゃ」ディズニーランドの悲しい現実 パワハラ、過重労働で提訴
年間3千万人超が訪れる「夢の国」ディズニーリゾート(TDR、千葉県浦安市)が裁判沙汰になっている。女性の契約社員2人がパワハラや過重労働で損害を被ったとして会社側を提訴。重くて暑苦しい着ぐるみの中で働き続けるうちに体調を崩したという。
TDRは今年、開園35周年。テーマパークとしてはユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、大阪市)と並ぶ人気ぶり。入園者数はディズニーランドとディズニーシーを合わせて約3千万人(2017年度)に上る。ミッキーやミニー、ドナルドたちが愛嬌(あいきょう)を振りまく「夢の国」で何が起きたのか。
訴状によると、原告はディズニーランドで着ぐるみに入って踊るなどしていた契約社員の女性2人。運営会社のオリエンタルランドに約755万円の損害賠償を求め、千葉地裁に7月提訴した。
原告側の主張は次の通りだ。Aさん(29)は、15年2月からディズニーランドで働き始めた。時給は1100円。着ぐるみを着て踊るなどしていたが、16年11月ころから手の震えなどを起こし、次第に症状が悪化。神経や血流の障害で痛みやしびれなどがある「胸郭出口症候群」と診断された。17年8月には、過重労働が原因だったとして、労災の認定を受けた。
Aさんの着ぐるみの総重量は10~30キロ程度で、両肩に負担がかかったという。
これを身につけながら、音楽に合わせて踊るショー・パレード(1回あたり40~45分程度)をこなす。入園者と写真撮影や握手などに応じるグリーティング(同20~30分程度)は、1日に7回行ったこともあったという。
「ディズニーの労働問題 『夢と魔法の王国』の光と影」(三恵社)の著書があるジャーナリストの中島恵さんは、労働環境は厳しいと指摘する。
「夏は着ぐるみの中はサウナ状態です。海風も受けるので、着ぐるみで働くことは負担が大きい。多少の雨ではショーは中止にならず、着ぐるみが雨水を吸収すれば重量は増します。米カリフォルニア州アナハイムにある本家のディズニーランドは乾燥した気候なので、日本の方が環境は厳しいでしょう」
もう一人の原告のBさん(38)は、複数の上司らから長期間パワハラを受けていたと主張している。
08年4月からディズニーランドで働いていた(時給1630円)が、13年に問題が起きたという。男性入園者に右手薬指を引っ張られて負傷したのに、警察への被害届の提出や労災申請をしようとしても、上司は協力してくれなかった。
上司からは、「エンターなんだから、それくらい我慢しなきゃ」「君は心が弱い」と言われた。
別の上司に相談しても、「Bさんのわがままには対応できない」「解雇対象」などと言われた。
その後も職場でのパワハラは続き、先輩からこんなことを言われたという。「お前みたいにやる気の無いやつは、全力でつぶすから」
「ショーベース(舞台)には神様がいるんだから、お前は神様に嫌われているから3カ月後に絶対けがするから覚えておけ」
さらには上司や同僚らとの打ち上げの飲み会で、職場環境音ことを相談すると上司はこんな暴言をしたという。
「病気なのか。それなら死んじまえ」
「30歳以上のババアはいらねーんだよ。辞めちまえ」
「てめーのワガママは聞いてらんねーんだよ」
上司だけでなく同僚からも無視や暴言などのいじめも受けるようになり、その結果、心療内科に通院することを余儀なくされた。
2人の主張に会社側はどう反論するのか。
原告側が提訴を予告したところ、「安全配慮義務違反や職場環境整備義務違反などによる損害の発生はない」などと争う姿勢を示したという。
オリエンタルランド広報部に取材してみたが、「訴状が届いていないのでコメントは控える」と答えるのみで、説明を避けた。
TDRを巡っては、こうした事例は「氷山の一角」だという。
原告2人を支援している「なのはなユニオン」(千葉県船橋市)は、これまでも従業員の不合理な雇い止めといった問題があったと指摘する。
15年には、ディズニーシーの人工河川で、清掃作業をしていた男性が死亡する事故もあった。厳しい労働環境や人間関係などに悩みを抱えつつ、時給1千円程度で働いている人は多いようだ。
前出の中島さんは「夢の国」のイメージを損ねたくない思いから、辞めていく人も少なくないという。
「着ぐるみに入って踊る出演者は、年に1人1度だけ受けられるオーディションによって選ばれます。ダンスレッスンを続けて腕を磨き、何度も挑戦してやっと受かる人もいる。ようやく夢をかなえたと思って、つらい状況になっても我慢しがちです」(中島さん)
中島さんは関係者を通じて、原告の思いを聞いている。
「2人とも会社側を訴えて攻撃したいのではありません。今後も仕事を続ける意思があり、夢の国のイメージを壊したくはないんです」
なのはなユニオンによると、今後、裁判に合わせて記者会見を開くという。「夢の国」の悲しい現実を、2人はどう語るのだろうか。